161円の正体③ ── 為替レートの裏側にある、世界経済の慢性疾患 ──

⑦:コロナという急性疾患が来た日


話はここで、一気に現代に戻る。

ブレトンウッズから始まった長い歴史の話が、2020年という一点に収束してくる。


財政出動の動機は正しかった

「まずコロナで財政出動したという動きは問題ないと思うんですけど、その量が大きすぎたんでしょうか? もともと困っている人がいるから、それを助けたいために財政出動したんでしょ?」

動機は正しかったらしい。

アメリカがやったこと:

国民に直接給付(1人最大$1,400 × 複数回)
失業給付を大幅増額
企業への給付金(PPP融資)
合計:約5兆ドル規模

困っている人を助けるという動機は、正しかったという。


どこで設計が狂ったか

3つのミスが重なったらしい。

① 量が経済の穴より大きすぎた

コロナで失われたGDP:約2兆ドル
財政出動の規模:約5兆ドル
↓
穴の2.5倍のお金を撒いた

② タイミングのずれ

給付金が届いた時には
経済が既に回復し始めていた
↓
需要が戻った経済に
さらにお金が注入された

③ 供給側を無視した

お金を撒いて需要を作った
↓
でもサプライチェーンはまだ壊れたまま
↓
需要 > 供給で物価が爆発

ただし「量が大きすぎた」は後から言える話らしい。

コロナ初期は「どこまで経済が壊れるか」誰にもわからなかった。最悪のシナリオに備えて大きく打った。結果として過剰になったという。

リーマンショックの時に「小さすぎた」と批判された経験が、今度は「大きすぎた」につながった皮肉もあるらしい。


何が起きたか、順番に

「消費が過熱した結果、何が起きたんですか? 買い占めですか? それとも実際には生活に困っていない人たちが、金融資産を増やそうとお金儲けに走ってしまったの?」

全部起きたらしい。でも順番と規模が重要だという。

第一波:生活必需品の買い占め

コロナ初期の恐怖
↓
トイレットペーパー・食料品・消毒液
↓
心理的パニック。比較的短期間で収束

第二波:耐久財への需要爆発

家にいる時間が増える
↓
PC・家電・家具・車が爆発的に売れる
↓
でも工場はコロナで止まっている
↓
供給が追いつかない → 価格が上がる

第三波:資産への流入

給付金が生活に困っていない層にも届く
↓
株・仮想通貨・不動産に流入
↓
資産価格が異常に上昇
↓
2021年のSPAC・NFTブームはここ

そして最大のインフレ要因は、実はこれだったらしい。

第四波:リベンジ消費の爆発

コロナ明けに
「旅行したい」「外食したい」「コンサート行きたい」
が一斉に爆発
↓
2年分の欲求が一気に出た
↓
でもホテル・航空・飲食の供給は
人手不足でまだ戻っていない
↓
需要 >>> 供給 → 価格が急騰

「リベンジ消費」と呼ばれた現象が、最も持続的なインフレの原因だったらしい。


困ったのは結局誰か

「じゃあ結局困ってるのって、アメリカの財務省だけなんじゃないんですか?」

ある意味そうらしい。

本当に困っている順番:

①アメリカ財務省(利払い爆発)
②住宅ローンを抱える中間層(金利上昇直撃)
③中小企業(借入金利上昇)
④新興国(ドル高で債務負担増)

困っていないのは:

・大企業(固定金利で長期調達済み)
・富裕層(資産価格上昇で恩恵)
・ウォール街の一部(高金利で利ザヤ拡大)

構造を整理するとこうなるらしい。

財政出動の恩恵は広く分散した
↓
インフレという「コスト」も広く分散した
↓
でも金利上昇という「後始末のコスト」は
借金している人に集中した

恩恵は拡散、負担は集中。

これが今のアメリカの本質的な歪みらしい。

だからトランプが「利下げしろ」と叫ぶ支持層がいる。彼らは正確に、自分たちが損をしていると感じているらしい。


お金が必要な場所に届かなかった

「日本のデフレと同じように、池に水が溜まらなかった感じですかね。」

そうらしい。

日本:緩和マネーが実体経済に流れず
   株・不動産・海外資産に溜まった

アメリカ:給付金が富裕層・資産市場に流れ
     実体経済のインフレだけ残った

共通点:
お金が「必要な場所」に届かず
「溜まりやすい場所」に集積した

どちらも池に水が溜まらなかった。


回収するしかない、でも

「どちらも政府が支出を大きくしたものだから、やっぱり政府が回収しないといけないよね。結局、お金が集まっているところに税金かけるしかないじゃない。やっぱりおんなじ結論に達してしまうなぁ。」

正しいらしい。そして歴史上これをやった国はほぼないという。

理由が単純だという。

お金が溜まっているところ
=政治献金をする人たち
=政治家を選ぶ人たち

課税する側と課税される側が、同じ人間なのだという。

だから繰り返すらしい。

配る → 溜まる → 回収できない → また配る → また溜まる

歴史上「溜まったお金を強制的に回収できた」のは、戦争・ハイパーインフレ・革命だったという。どれも**「制度の外側からの強制リセット」**だ。

平時の民主主義の中では、政治的に実行できた国はほぼないらしい。


ここまで来て、すべての話が一点に収束し始めた。

日本のデフレ対応も、アメリカのコロナ財政出動も、為替介入も、ブレトンウッズの崩壊も——全部が同じ構造の話だった。

その構造を、一行で表現できる言葉が見つかった。


終わりに:慢性疾患患者へのワクチン副作用


一日の終わりに、こんな言葉が出てきた。

「これは単なる比喩だけど——慢性疾患患者に対するコロナワクチンの副作用なんだね。これが、知りたかったことの答えかもしれない。」


その比喩が正確な理由

慢性疾患(財政赤字・格差・構造問題)
を抱えたまま

コロナという急性疾患が来た

緊急処置(財政出動・金融緩和)を打った

急性疾患は乗り越えた

でも慢性疾患の患者に強い薬を打ったことで
副作用(インフレ・金利上昇・格差拡大)が
慢性疾患をさらに悪化させた

そしてこの比喩が優れているのは、悪意がないという点だという。

悪意はない
処置は必要だった
でも副作用は避けられなかった
そして慢性疾患は治っていない

陰謀論でも単純な政策ミスでもなく、構造的な必然として今の世界経済を説明できる言葉らしい。


一日の旅を振り返る

プロローグで持っていた疑問たちは、こういう構造だったらしい。

「金利を下げたいのは誰か」 → 財務省と不動産人脈。でもウォール街は分裂していた。本当の問いは「誰に逃げ場があるか」だった。

「国債を発行すればいいじゃないか」 → 借りれば借りるほど利払いが増え、金利を下げたいインセンティブが強まる自己強化ループに入っていた。

「インフレ税で解決しようとしているのでは」 → 構造的にそうなりやすいインセンティブはある。でも基軸通貨国にはやりすぎると逆効果になる綱渡りがある。

「為替介入はアメリカへの激痛では」 → そうらしい。日本はアメリカの信頼を50年間買い支えていた。介入はその信頼関係を世界経済の前で薄める行為だった。

「なぜ130円に戻らないのか」 → 金利差・経常収支の変化・NISAの資金流出。そしてNISAでオルカンを積み立てる私たち自身も、その構造の一部だった。


歴史の大きな流れで見ると

1944年:ブレトンウッズで金がドルを担保した
1971年:ニクソンショックで金との約束が破られた
1970年代:石油がドルの新しい錨になった
1990年代:日本が財政出動で時間を買い始めた
2008年:リーマンショックでアメリカも量的緩和に踏み込んだ
2020年:コロナで急性疾患が来た
2022年:副作用としてのインフレが爆発した
2026年:161円という数字が画面に映っている

161円は結果だ。根っこは1944年まで遡る。


経済学はこれをどう呼ぶか

この構造に近い概念がいくつかあるらしい。

ハイマン・ミンスキーは「安定が不安定を生む」と言ったという。好景気が続くとリスクを取りすぎる行動が蓄積し、外部ショックで一気に顕在化するという。

ラインハート&ロゴフは800年の金融危機の歴史を分析して「どの時代も『今回は違う』と言いながら同じパターンで危機が来る」と書いたらしい。

でも「慢性疾患患者へのワクチン副作用」という言葉は、それらの理論を横断していたらしい。因果・構造・限界・皮肉を、同時に表現できているという。


市民として、何を見るべきか

この文章を書いたのは投資の話をしたかったからではない。

家族の資産を守る者として、子供たちが出ていく社会を設計する者として、投票行動として何を判断すべきかを考える一市民として——161円という数字を理解したかっただけだ。

そして一日の対話を経て、わかったことがある。

為替レートは専門家だけのものではない

NISAでオルカンを積み立てる行動が円安を作り
消費がインフレを動かし
投票が金融政策に影響を与える

161円は他人事ではない

そして最も重要なことがあるらしい。

「通貨とは信頼であり、信頼とは関係性だ」

日本とアメリカが50年間、信頼を支え合ってきた。その関係性が今、金利・為替・国債市場という形で軋み始めている。

161円はその体温計だ。


最後に

「世界には必ず構造がある。」

楽観ではなく、希望として。

わからないまま考え続けることが、市民としての誠実な態度だと思う。専門家でなくても、構造は読める。数字の裏側を想像できる。

ニュースで「161円台」という数字を見た時、以前とは少し違う目で見られるようになっていれば、この一日の記録には意味があった。


壊れるとわかっていても、いつ壊れるかわからない。
その「いつ」を巡って、今日も7.5兆ドルが動いている。
そしてその片隅で、私たちは投票し、消費し、積み立てている。




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