161円の正体② ── 為替レートの裏側にある、世界経済の慢性疾患 ──
④:161円はなぜ130円に戻らないのか
「実質為替レートは130円くらいなのに、なぜこんなに円安なのか? 答えは出てる?」
出ているらしい。ただし「一つの答え」ではなく、複数の構造が重なった結果だという。
実質為替レートという概念
購買力平価ベースで130円前後というのは、概ね妥当な感覚らしい。ビッグマック指数や購買力平価ベースでも「円は歴史的に割安」というのはコンセンサスになっているという。
ではなぜ市場レートがそこに収束しないのか。
構造的な理由① 金利差が支配的になった
本来、為替は貿易・経常収支で動くはずだったらしい。でも2022年以降は日米金利差がほぼ全てを説明する状態になったという。
円キャリートレードという仕組みがある。
日本でほぼゼロ金利で借りる
↓
ドル資産に投じて5%取る
↓
金利差だけで儲かる
これが巨大なポジションになっていて、円安を維持する圧力になっているらしい。
構造的な理由② 日本の経常収支の変化
かつての「貿易黒字→円買い圧力」が弱まったらしい。
- エネルギー輸入増(円安でさらに悪化)
- 日本企業が海外生産に移行 → 輸出しても円に戻さない
- デジタル赤字(Google・Netflix等への支払いがドル建て)が拡大
円を買い戻す構造的な力が弱くなったという。
構造的な理由③ 家計・企業の円離れ
NISAでオルカンやS&P500への資金流出が加速しているらしい。日本国内からドル資産への需要が構造的に増えているという。
そしてここで、少し居心地の悪い話が出てきた。
NISAでオルカンを積み立てているすべての人が、構造的には円安の一因になっているらしい。
個人として合理的な行動が、集合すると円安圧力になる。誰も悪くないのに、そうなる。
では「なぜ130円に収束しないか」の本質
実質レートへの収束が起きるには:
- 日本のインフレ継続(実質レートの調整)
- 金利差縮小(FRB利下げ+日銀利上げ)
- キャリートレードの巻き戻し
このどれもが「一瞬で起きる」のではなく、「ゆっくり、あるいは突然崩壊する」という非線形な動き方をするらしい。
2024年8月のキャリー巻き戻しがその予告編だったという。あの時、一瞬で円相場が大きく動いた。
ニュースが読めるようになった瞬間
この構造を理解した上で、こんなニュースを読んだ。
「日銀が0.75%から1.0%へ利上げしたものの、市場は『ハト派的利上げ』と受け止めて円売りが優勢となった」
以前なら「利上げしたのになぜ円安?」と思っていたはずだ。
でも今はわかる。
市場は「利上げの速度が遅すぎる」と判断した
↓
金利差はまだ縮まらない
↓
キャリートレードは続く
↓
円売り圧力は変わらない
数字の裏にある構造が見えると、ニュースの意味が変わる。
「正しい方向に賭けているが、タイミングが読めない」
円高に転じるシナリオは論理として正しいらしい。でも収束のタイミングは:
- 金利差が縮まるまで円安が続く
- 縮まった瞬間にキャリー巻き戻しが一気に来る
「正しい方向に賭けているが、タイミングが読めない」という典型的な構造だという。
これは投資の話でもあるが、もっと大きな話でもある。
世界経済の「詰んでいる構造」は、みんなが知っている。でも「いつ壊れるか」は誰にもわからない。
その「いつ」を巡って、毎日7.5兆ドルが動いている。
⑤:ブレトンウッズという失われた錨
話がここまで来て、ふと思った。
「そもそも、なんでこんな構造になったんだろう。」
答えは1944年まで遡るらしい。
戦後の世界秩序を設計した会議
第二次大戦末期、アメリカのニューハンプシャー州にあるブレトンウッズというリゾート地に、44カ国の代表が集まったらしい。
議題は一つ。戦後の世界経済をどう設計するか。
そこで決まったことの核心も、一つだったという。
金1オンス = 35ドル(固定)
各国通貨 = ドルに固定
つまり**「ドルを金の代わりにする」**という合意だ。
なぜアメリカが中心になれたのか。理由はシンプルだったらしい。
戦後、世界の金の約7割をアメリカが保有していた
↓
「ドルはいつでも金に換えられる」が信用力の根拠
↓
世界中がドルを基軸通貨として受け入れた
戦争で疲弊したヨーロッパに対して、アメリカだけが圧倒的な経済力と金の保有量を持っていた。だからこの合意は成立したらしい。
なぜ崩壊したのか
ベトナム戦争が引き金だったらしい。
アメリカが戦費でドルを刷りすぎる
↓
「ドルより金の方が信用できる」と各国が判断
↓
フランス等が「ドルを金に換えてくれ」と要求
↓
アメリカの金保有量が急減
↓
1971年、ニクソン大統領が「金とドルの交換停止」を宣言
これがニクソンショックだという。
重要なのは、「制度に無理があったから壊れた」のではなく、**「アメリカが約束を守れなくなったから壊れた」**という点らしい。
覇権国が自ら規律を破った。それがブレトンウッズ体制の終わりだったという。
金本位制には無理があったのか
「でも待って。金本位制って構造的に無理があるから、変動相場制にしたんじゃないの?」
実は両方正しいらしい。ここが歴史の面白いところだという。
金本位制の構造的な問題:
経済が成長すると取引量が増える
↓
それを裏付ける通貨が必要になる
↓
でも金の採掘量は経済成長に追いつかない
↓
デフレ圧力が慢性的にかかる
経済を金の採掘速度に縛り付けるという、設計上の根本的な欠陥があったらしい。大恐慌(1929年)の一因も、金本位制が各国の景気刺激策を縛ったことにあったと言われているという。
一方で、ニクソンショックはアメリカが財政規律を守れなくなった結果でもあった。
**「制度に無理があった」と「覇権国が規律を破った」が重なって崩壊した。**どちらか一方ではないらしい。
「単位を変えればよかったんじゃない?」
「金本位制の話ね。ドミナントって言えばいいのかな、単位を変えればいいだけなんじゃないの?」
鋭い疑問だった。
金1オンス=35ドルを、金1オンス=3500ドルに再設定する。数字的にはそういう「再設定」は理論上可能らしい。
でもこれが機能しない理由があるという。
単位を変えても金の総量は変わらない
↓
経済規模は今も成長し続ける
↓
また数年で「金が足りない」状態に戻る
↓
また単位を変える
↓
繰り返し
そして決定的な問題がある。
金本位制の本質的な価値は**「政府が勝手に通貨を増やせない」という制約**にあったらしい。でも「単位を変えられる」と認めた瞬間に、その制約が消えるという。
「いざとなれば変えられる」という制度は、変えられない制度と根本的に別物だという。
実際に1971年以前にも各国は何度も平価切り下げをやっていたらしい。そしてそれをやるたびに制度への信認が少しずつ失われていった。ニクソンショックはその最終的な崩壊だったという。
崩壊後に何が起きたか
固定相場制が終わり、変動相場制へ移行した。
でもそこで新たな問題が生まれたらしい。
「何を根拠にドルを信用するのか」
ここで登場したのがペトロダラー体制だという。
アメリカがサウジアラビアと合意
「石油取引は必ずドルで行う」
↓
世界中が石油を買うためにドルが必要になる
↓
金の裏付けがなくてもドルが基軸通貨であり続ける
**金の代わりに「石油」がドルを支える構造に切り替えた。**金という物理的な錨を失ったドルは、石油という別の錨を見つけたらしい。
ユーロという挑戦
「通貨を統合しようとするユーロの試み、あれはどうだったの?」
ユーロは「壮大な実験であり、同時に反証実験でもあった」らしい。
ユーロが証明したこと:
金融政策 → ECBが統一
財政政策 → 各国バラバラのまま
この非対称性が全ての問題の根源だったという。ドイツは財政規律を守る。ギリシャ・イタリア・スペインは借り続ける。でも金利は同じ通貨だから収束していた。
「信用力の違う国が同じ金利で借りられる」という歪みが、2010年の欧州債務危機として爆発したらしい。
そしてユーロはドルへの対抗軸になれなかった。その理由:
① 統一された国債市場がない
ドイツ国債とイタリア国債は別物
「ユーロ国債」は今も存在しない
② 軍事力が統一されていない
③ ネットワーク効果が追いつかない
みんながドルを使うから、みんなドルを使う
皮肉なことに、ユーロの失敗が証明したのは**「なぜドルが基軸通貨であり続けるのか」**だったらしい。
そして最も重要な教訓として——**「基軸通貨は設計できない」**という。ドルは設計されてなった通貨ではなく、歴史・戦争・制度・ネットワーク効果が積み重なってなったものだという。
錨を失った世界
ブレトンウッズ:金がドルを担保していた
↓ 1971年崩壊
ペトロダラー:石油がドルを担保した
↓ 今、これが揺らいでいる
サウジが人民元建て石油取引を容認し始めた
ロシアがドル決済から離脱した
さらに今、アメリカの財政赤字が膨張し、FRBの独立性が侵食されつつある。
これは全部**「ペトロダラー体制の信認が揺らいでいる」**という一本の線で繋がっているらしい。
161円という数字は、1944年から続くこの長い物語の、現在地を示す体温計だという。
ここまで来て、一つの問いが浮かんだ。
「通貨って、結局何なんだろう。」
次の章で、話は最も哲学的な場所に入っていく。
⑥:通貨とは何か、という根本的な問い
「なんでこんな現象が起きるのか、全くわからないんです。」
正直に言うと、これが一番誠実な感想だった。
為替介入の仕組みはわかった。米国債市場への影響もわかった。ブレトンウッズの崩壊もわかった。でも、何かもっと根本的なところがわかっていない気がした。
そこで聞いてみた。
「今までのやりとりで、通貨という概念において、根本的に理解していない部分はありますか?」
答えは意外なものだった。
自分で気づいていた
「根本的な欠落はない」らしい。
むしろ自分でこう整理していた。
価値の総量が変わる
それを正確に評価できる指標がない
だから適切な通貨の総量がわからない
これは正しいという。ただ、もう一行加えると完成するらしい。
しかも「通貨そのものが価値の評価に使われる」
これが根本的な奇妙さの正体だという。
定規が縮んでいる
普通の計測はこうだ。
定規で長さを測る
→ 定規自体は変化しない
→ 測定結果が信頼できる
通貨はこうだという。
通貨で価値を測る
→ 測る道具自体が変化する
→ 何を基準にしているかわからなくなる
**「1メートルの定規が毎年縮んでいる状態で長さを測っているのが、現在の通貨制度だ」**らしい。
だから何が起きるか。
通貨の総量を増やす
↓
通貨で測った価値(物価)が上がる
↓
「価値が増えたのか通貨が増えたのか」が区別できない
↓
インフレなのか成長なのか判断できない
↓
適切な金利・通貨量がわからない
↓
中央銀行が「だいたいこのくらい」でやっている
中央銀行でさえ「だいたいこのくらい」でやっているらしい。
仮想通貨が混乱させてくれる
「仮想通貨さぁ、混乱させてくれるよね、通貨の意味を。あれって結局データが改ざんできない、トレーサビリティーが保障されているというだけであって、実質的な尺度として通用しているかというと、そうではないでしょう。」
そうらしい。仮想通貨は通貨の3つの機能で整理すると鮮明になるという。
①交換手段(決済に使える)→ 限定的に○
②価値の保存 → △(ボラティリティが高すぎる)
③価値の尺度 → ✗
③が機能しない時点で「通貨」ではなく「投機資産」だという。
なぜ尺度になれないか。
今日1BTC = 1000万円
明日1BTC = 800万円
この状態で「BTCで値段をつける」ことは不可能だ。定規が毎日長さを変えるどころか、定規自体が売買されている。
仮想通貨が証明したこと
でも仮想通貨には、重要なことを証明した側面があるらしい。
通貨の本質は「集合的な信念」だという。価値の裏付けは最終的には:
みんながこれに価値があると思っている
↓
だから価値がある
↓
だからみんな使う
この循環だけで成立しているらしい。
仮想通貨はそれを**「信念だけで作れる」ことを証明してしまった**という。
国家も金も裏付けがなくても
みんなが価値があると思えば価値が生まれる
↓
じゃあ既存の通貨も同じじゃないか
↓
通貨って何?という混乱
でも法定通貨には決定的な違いがある
仮想通貨と法定通貨の決定的な差は、「税金をこれで払わなければならない」という強制力だという。
国家権力が「これで納税せよ」と言う
↓
国民は否応なくその通貨を必要とする
↓
需要が強制的に生まれる
↓
信念ではなく「強制」が価値を担保している
仮想通貨にはこれがない。純粋な信念だけで成立している——だからこそ脆くて、だからこそ面白い実験でもあるらしい。
投機性は通貨に内在する
「通貨の持つ投機性が全く考慮されていないという失敗であって、これって証明されてるんじゃない?」
概ね証明されているらしい。
歴史が繰り返し示してきたことがあるという。
投機性を排除しようとする制度設計は、必ず崩壊する
ブレトンウッズ然り、欧州通貨危機然り、アジア通貨危機然り。固定しようとするたびに、投機に狙い撃ちされてきたらしい。
なぜ投機性が必ず生まれるのか。
価値の総量が正確にわからない
↓
「適正価格」が存在しない
↓
どんな価格でも「高い」「安い」の根拠が曖昧
↓
将来の価格差を取りに行く行動が合理的になる
↓
投機が生まれる
「適正価格がわからない」という構造的な不確実性が、投機を必然的に生み出す。
これはプロローグで持っていた疑問——「価値の総量が変わる、正確な指標がない、適切な総量がわからない」——の直接的な帰結だったらしい。
通貨制度の根本的なジレンマ
厳格な制約をつける(金本位制)
→ 経済成長を縛る・政治的に維持できない
柔軟にする(変動相場制)
→ 規律が失われる・今の状態になる
「より良い制度」ではなく「別の問題を持つ制度」に乗り換えただけだったとも言えるらしい。
「わからなさ」を直視できること
**「なんでこんな現象が起きるのか全くわからない」**という感覚は、正常な感覚らしい。
わかっている人間も、本当の意味ではわかっていない。中央銀行も「だいたいこのくらいが適切」という経験則で動いているに過ぎないという。
その「わからなさ」を直視できていること自体が、かなり深い理解の証拠だという言葉が、妙に腑に落ちた。
通貨とは信頼であり、信頼とは関係性だった。
では、その「関係性」が歪んだ時に何が起きるのか。
次の章で、話はコロナという急性疾患の話に入っていく。
コメント
コメントを投稿